青いメダカ、オリジアス・ウォウォラエ

 大学院に進学して間もない頃、隣の研究室の山平教授がウォウォラエを採集しに行くと聞き、調査に同行させていただきました。山平先生と大学院生のダニエル、(有)ピクタの陶さんの四人で行きました。オリジアス・ウォウォラエ(Oryzias woworae)は日本のメダカと同じOryzias属に含まれるインドネシアのメダカです。Oryzias属はアジア地域に広く分布していますが、なぜかボルネオ島には分布しておらず、ウォーレス線を跨いだお隣のスラウェシ島内には全体の半数以上のメダカが分布しているという奇妙な分類群で、生物地理学的に興味深いです。

 日本→シンガポール→マカッサル(スラウェシ島)→クンダリと飛行機で移動し、クンダリから船でムーナ島に行き、そこからタクシーで二時間かけてたどり着いた集落の近くに、彼らのタイプロカリティーがありました。

 


 

 写真を見ると一見ジャングルの中のように見えますが、現地の人々はここで水浴びをしたり、ジャンプ台から飛び込んで遊んだり、非合成由来の石鹸で洗濯をしたりと、生活の場として利用していました。ウォウォラエは現地ではカティティカンダと呼ばれており、つっつく魚という意味らしいです。実際に、泳いでいると皮膚をつんつんしてきます。

 


 

 山平先生とダニエルはこの他にもスラウェシ島の様々な地域を回って研究しており、その成果はCopeia誌やMolecular Phylogenetics and Evolution誌に掲載されています。また、私が同行したときの調査は月刊アクアライフ2012年7月号に詳しく掲載されています。当時ウォウォラエはムーナ島からしか見つかっていませんでしたが、今では青いメダカの系統がスラウェシ島の南東部に広範囲に分布していることが明らかとなり、新種が続々と記載されています。

 今回の旅で特に印象に残ったのは、ウォウォラエが生息していた泉の底質全体が、サンゴ礁のような形の浅黒い石灰岩質だったことです。見た瞬間、琉球石灰岩にとてもよく似ていると思いました。もしかしたら、宮古島と同じように、ムーナ島は更新世に一度海に水没しているのかもしれません。しかしながら、この熱帯らしい生物多様性はなんなんでしょうか。島の生物群集の成り立ちは、生態学的プロセスを抜きにして、単に歴史的背景だけで説明できるものではないと思いました。

 



詳細につきましては以下の文献をご参照ください。

・Yamahira K., Mochida K., Fujimoto S., Mokodongan DF., Montenegro-Gonzalez JA., Kaito T., Ishikawa A., Kitano J., Sue T., Hadiaty RK., Mandagi IF., Masengi AKW. (2016) New localities of the Oryzias woworae species group (Adrianichthyidae) in Sulawesi Tenggara. Jumal Iktiologi Indonesia. vol.16 No.2: 125–131.